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泡沫のパティ (´<_` )弟者は彼女の星を探すようです

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(´<_` )弟者は彼女の星を探すようです 

スレ立て短編。
元ネタはBUMP OF CHICKENの『プラネタリウム』から。

作中にあるプラネタリウム作成法について、大まかではこれで合っていますが
自分でもこのやり方で試してないので、本当にこれで出来るかどうかはわかりません。
詳しくはプラネタリウム、作り方でググるか以下のサイトを参考にしてみてください。

今回プラネタリウム作成について参考にしたサイト
ttp://www.megastar-net.com/desktopschool/desktopschool.html
ttp://www.megastar-net.com/school/pinhole_plane.html
ttp://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/handmade2004/light/pura/pura.htm

大人の科学のプラネタリウムも素晴らしいと評判です
簡単に作れる上に冊子もついているのでオススメです
ttp://otonanokagaku.net/magazine/vol09/index.html

家庭用プラネタリウムというのも発売されています
値段は張りますが綺麗との事です
ttp://www.segatoys.co.jp/homestar/

パソコン上でリアルタイムの星の動きを見れるソフトもあります
ttp://www.stellarium.org/wiki/index.php/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8


1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:03:41.28 ID:MqrcOdKi0

1.
大学に入って一人暮らしを始めたこの部屋はお世辞にも広いとは言い難い。
天井も低いしそこら辺中汚れが目につく。しかし一人で住むには充分なスペースだ。
元より俺という人間自体、物を置いて部屋を明るくするより実用性のあるものをコンパクトに置きたがる性質だった。

実家に住んでいた頃は兄者と二人部屋だった。
兄者はフィギュア等趣味で集めている物をやたらと飾りたがっていたから、部屋は常に物で溢れていた。

それが原因で兄者と物を置くスペースの事で何度も揉めた記憶がある。
あの頃と比べれば今の生活は理想形に近い。何の文句もないくらいだ。

窓の外は驚く程の快晴。だが、俺の心は陽気な太陽に反して湿りきっていた。
既に日は高くなっているのに、布団も畳まず横になって天を仰ぐ。

大学の単位は余裕があるから慌てていく必要もない。
常に暇と言っている友達と遊びにいく気分にもなれない。
ここ数ヶ月間、気分は少しも晴れなかった。

やる事がなくぼうっと天井を見上げていると、ある事を思い付き、布団から飛び起きる。
机の上に置いてある自分専用のパソコンを開いて検索。目的の物はすぐ見つかった。

(´<_` )「気分転換にはちょうどいいかな」

プラネタリウムを作ろう、と書かれたページを印刷すると俺は狭い部屋から勢い良く飛び出して行った。



(´<_` )弟者は彼女の星を探すようです


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:05:45.98 ID:MqrcOdKi0

材料は近くの商店街で事足りた。

わざわざ作らなくても、書店へ行けば大人の科学だとかそういった類いの本を買えば付録で付いてくる。
けれど敢えてそれをしなかったのは、昔夏休みの宿題で簡単なプラネタリウムを作った事があったからだ。

作るのにさほど時間がかかる訳じゃないのを知っていた俺は、
ネットで書かれていた作成法を頼りに必要な道具を購入した。

それにあくまで暇つぶしに作るだけであって、本格的に星の事について学ぶつもりはなかった。
だから特別天体の本を買わずに、設計を見ながら組み立てる事にしたのだ。

(´<_` )「材料はこれで全部だな」

黒いボール紙、電球、ソケット、小さな角材、電池ボックス、それに乾電池を二つ。
たったこれだけで擬似的な夜空を作れるだなんて、先代の残した技術の素晴らしさには感服する。

まずは実際に作る形を考える。

元々プラネタリウムの形象は半球だが、いざ半球を作るとなるととても大変だ。
半球を模ったプラスチックは探せばあるが、生憎商店街の雑貨屋には置いていなかった。
そこで円筒円錐台形を利用する。

これは名前の通り、円筒の上に円錐の天辺を平らにそり落とした物を合わせた形だ。
他にも作ろうと思えば色々な形象があるが、簡単に、尚且つ綺麗に作れるこの形でいこうと思う。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:08:07.73 ID:MqrcOdKi0

次に千枚通しでボール紙に穴を開ける。
先程俺は星の事について学ぶつもりはないと言ったが、それでも折角作るなら実物と近付いた物を作りたい。
ネットで探せば星座の座標について詳しく書かれているページはいくらでも見つけられた。

一つ一つ、丁寧に穴を開けていく。当然ながらこの作業はとても面倒だ。
それにボール紙は耐久力があまり強くない。
開けた穴は一つ一つ、糊で固めて丈夫に作らなければならなかった。

(´<_` )ガリガリ

子供の頃に作ったそれと比べれば手間が掛かるやり方だが、時間を持て余している俺にとってはこれで充分だった。

粗方全て穴を開け終えた頃、既に日は落ち、辺りは暗くなっていた。
開けた穴を確認しながらボール紙を円筒円錐形に組み立てれば、後は電球を付ける為の土台を作るだけだ。

小学生の頃に習った電気回路を思い出しながら豆電球と電池ボックスの銅線を合わせる。
電池ボックスは色々な種類があるが、後々作るのを省くために既にスイッチが付いている物を使った。
綺麗に接続出来るように配線をペンチで固定する。

それが完成すれば電池ボックスを角材に固定して、土台は完成。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:11:17.81 ID:MqrcOdKi0

後は上部に向けた豆電球がズレないように、余ったボール紙を筒状にしたものを通して固定する。
円筒円錐台形の中に豆電球を入れれば手作りプラネタリウムの完成。

全てを完成し終えた頃には、すでに日付は変わっていた。
早速出来栄えを見てみたくて部屋の電気を消し、電球のスイッチを入れた。

(´<_` )「おお」

一瞬にして暗闇だった部屋が一転、星で溢れ返った。
狭い部屋から果てしない宇宙に放り出されたようで、自分の部屋なのに何だか不思議な気分になる。

暫くはただ天井の星を眺めていたが、ある事を思い立ち、机の上に横たわっている千枚通しを取る。
冬の空を参考にして開けた穴から漏れる多数の光。
一般的に言う冬の大三角形の一つ、シリウスの斜め上に小さな穴を開けた。

固定もせず開けた穴はとても小さく、注視して見なければすぐに他の星に紛れてしまう程だ。
けれど俺は、部屋の片隅にその姿を現したその星だけをただただ見つめて、目を逸らせないでいた。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:14:07.80 ID:MqrcOdKi0

(´<_` )「……」

不意に彼女の事が頭に浮かぶ。
人目を引く美しさ、気高く勝気なその佇い。
いつか見た後ろ姿が鮮明に、俺の中で鮮やかに再現されている。

小さなその星はすぐに消えてしまいそうなのに、他のどの星よりも輝いて見えた。
それはまるで、彼女のようだった。

(´<_` )「クー」

久々に口にした彼女の名は、あの頃と何一つ変わらなかった。
昔は口にする度に心臓が高鳴り、胸が締め付けられて苦しくもなった。
今はもうその頃のような淡い感情を抱いてはいないが、名前を口にすると胸が熱くなるのは昔のままだった。

そのまま横になり、ただ一点のみを見つめる。
そういえば初めて彼女を見た時もこんな風に遠くから眺めていた気がするな。
少しずつ昔の事を思い出していく内に、緩やかな睡魔に襲われる。

星々の優しい光に包まれながら、俺はゆっくりと意識を手放した。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:16:43.61 ID:MqrcOdKi0

目を開けるとそこは桜吹雪が舞う並木道だった。
この道には見覚えがある。大学へ行く道になっていて、通学によく通っている道だ。

優しい風が俺の頬を撫でる。
深く空気を吸うと甘い花の香りがした。

並木道は暖かい光が差し込んでいて、春独特の陽気な空気を肌で感じる。
道の先をぼうっと見つめていると、花びらに紛れて人影が見えた。
長い黒髪が風に靡く。凛とした視線が俺の姿を捉えていた。

あの姿には見覚えがあった。
名前は思い出せないが、大学でよく見かける綺麗な人だ。

川 ゚ -゚)

ゆっくりと俺の方へ歩いて来る彼女は揺らぐ事なくしっかりとした目で俺を見ている。
風の音が耳を掠み、ざわめきが聞こえて来た。
棒立ちしたままの俺に彼女は近付く。一歩、一歩、また一歩。

彼女は俺の前に立ち止まる事なく、そのまま俺の横を通り過ぎていった。
その間俺は何故か身体を動かす事が出来ず、視界の端に映った彼女の綺麗な微笑みを最後に、再び一人になってしまった。
その証拠に、前方から彼女がやって来た時まで感じていた視線を背中に感じないからだ。

彼女を視界から失って数分後、それまで金縛りにでもあったかのように動かなかった身体が唐突に自由になった。
後方を振り返っても彼女はいない。あるのは舞い散る桜の花びらと、どこまでも続く並木道だった。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:20:18.70 ID:MqrcOdKi0

2.
瞼の向こう側で温かい何かを感じた。
耳を澄ませば小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
瞼を持ち上げると、カーテンの隙間から漏れる日差しが俺の腕に降り注いでいた。

天井を見上げると薄暗い室内にちらちら小さな光が見える。
そういえば昨晩は遅くまでプラネタリウムを作っていたな、などと考えていると額に嫌な汗が流れた。
光が点いている、という事は一晩中電池は稼動していたということで。

(´<_`;)「やべぇ!」

勢い良く飛び置きた俺は昨晩作ったプラネタリウムのスイッチを慌てて消す。
案の定電池部分は熱くなっており、触れると指先に熱が走った。

スイッチを消したと同時に、反射に手を引っ込めてヒリヒリする指に息を吹き掛ける。
念の為後でもう一度電池を買いに行こう。そんな事を思いながらカーテンを開けた。

日は未だ東の空をのんびりと徐行しており、まだおはようと言える時間帯だった。
太陽の眩しさに目を細めながら空を見上げると、頭を掻きながら一人呟く。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:23:03.08 ID:MqrcOdKi0

(´<_` )「学校、行ってみるかな」

まるで今まで不登校だった少年の呟きのようだ。
そういえば兄者は中学の頃、理由もなくいきなり不登校になったな。

いじめられている訳でもない兄者の不登校の理由は学校まで行くのが面倒臭いという下らない理由だったにも関わらず、
それから半年もの間その不登校を貫き通して来た。

あの母者に一体どんな言い訳をしたのか知らないが、ああいう抜け目のない所だけは本当に流石だと思う。
ついでに社会人になった兄者が今でも不登校ならぬ不出社なのはここだけの秘密だ。

学校に行くとなれば準備をしなければ。
受けるべき講義は取り終えているから急ぐ必要はない。昼を間に合わせて着くようにしよう。
そんな事を考えながら、俺は大きなあくびを一つ零して箪笥から適当な衣服を取り出した。

13 名前:>>11訂正[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:28:54.14 ID:MqrcOdKi0

3.
学校に行くまでは億劫だが家から出てしまえば何でもないものだ。
ここ最近は寒い日が続いていただけに日差しがとても温かく感じる。
丸裸の並木道を通り抜け、暫く歩けば大学はすぐそこだ。

構内に入ると、どうやら午前の講義が終わったらしく外には沢山の生徒で溢れ返っていた。
家を出る前に腹を満たした俺は昼飯を食べる気にもなれず、
近くにあったベンチに座って読み掛けの参考書を眺める事にした。

普段なら寒いからと言ってさっさと室内に入るが、たまには太陽の日差しも浴びた方がいいだろう。
そんな事を思いながら鞄から参考書を出し、行きかう人を横目にページを捲った。

集中して参考書を読んでいると俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
顔上げて周囲を見渡せば見覚えのある顔が二つ、俺に向かって手を振っていた。
つられてこちらも手を振り、本を閉じて友人がやって来るのを待った。

「弟者、久し振りじゃないか」

(´<_` )「ああ、久し振り」

最後に大学に来たのは半月位前だから顔を付き合わせるのは本当に久し振りだった。
この半月もの間、俺は何かをする訳でもなく一日中部屋に籠っていたから人と話すのも実に久しい。

そのせいか、少しばかり緊張して身構えてしまう。
きっと今の俺は強張った顔をして笑っている。そんな気がした。



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:31:24.54 ID:MqrcOdKi0

「お前少し痩せてないか、ちゃんと飯食ってるのか」

(´<_` )「人並みには」

「連絡も寄越さないからてっきりくたばったのかと思ったよ」

(´<_` )「生憎まだ死にたくはないからな」

憎まれ口を叩き合って笑う。たったそれだけの事なのに何故か気が重い。
友人達はこうやって優しく声を掛けてくれるが、今の俺にはそれがとても辛かった。
けれども辛いという事も言えず、俺は友人達をこれ以上心配させないように明るく努める。

もしかしたら友人達には既に無理をしているとどこかで勘付いているのかもしれない。
それでもこれが今の俺が出来る最低限の心遣いだった。

友人達と談話をしている内に講義の時間になった。
専攻の科目が異なる為、友人達と別れると荷物をまとめて室内へ入る。
温まった身体を日向から日陰に移動すると小さく身震いをした。

冷たい空気が俺の身体を包み込む。
ポケットに手を入れながら寒さを凌ぎ、目的の教室へと向かって行った。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:34:43.40 ID:MqrcOdKi0

4.
午後の講義を受け終え、家に帰る頃には夜になっていた。
肩には鞄、片手にはコンビニで買った弁当を一つ下げて部屋の鍵を開ける。

(´<_` )「ただいま」

一人暮らしになっても尚変わらない点を一つあげるならば、行って来ますとただいまを必ず言う所だ。
幼い頃から躾に厳しい母者に、最低限の挨拶位は人並みに出来るようにと言われていた。
そのお陰で近所付き合いも良好、交友関係も今の所悪くはなく順調に進んでいる。

部屋着に着替るとコンビニ弁当を取り出して食べる。
最初の頃こそ自炊もしていたが、次第にコンビニで済ませてしまう事が多くなった。

一人暮らしになると母の味が恋しくなるのは本当だった。
下手くそな自分の料理よりも、愛情のない冷めたコンビニ弁当よりも、母者の作った飯に勝てるものはない。
日本の男は皆マザコンというのはあながち間違いでもないかもしれないな。

(´<_` )ムシャムシャ

見もしないテレビを付けて無心で食べていると、プラネタリウムの事を思い出した。
今朝慌ててスイッチを消したそれは部屋の隅に置かれている。
俺は箸を置くとテレビを消し、プラネタリウムを拾いあげた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:37:13.49 ID:MqrcOdKi0

コンビニへ行った際購入した電池を入れ替え、付くかどうかの確認をする。
それなりに長い時間電源を入れたままで壊れていやしないか心配だったが、
プラネタリウムは昨日と変わらず白く発光していた。

部屋に付いているありとあらゆる電気を消した。カーテンも締めて外の僅かな光すら遮断した。
薄暗い部屋に存在するのは俺の手の中で光を放っているプラネタリウムだけだ。

プラネタリウムを机の真ん中に置いて横になる。
天井も壁も星で埋め尽くされた室内は小さな宇宙のようだ。
その中でただ一つ、本来ならば決して存在しないはずの星がこの空間で光輝いている。

(´<_` )「クー」

彼女の名を呟き、鈍く輝いている星を見つめる。
大きく穴を開けていないその星は他のどの星よりも小さい。
けれども、他のどの星よりも光輝いて見えた。

横になったままその星に両手を伸ばす。
両側から包み込むように星を手中へ収める動作をすると、胸が熱くなった。
疑似的ではあるがその星を手に入れたような気がして、暫くは星を掴んだつもりの手を愛しく見ていた。

胸が詰まり、言葉では上手く表せない感情が混ざりに混ざって俺の中に存在していた。
苦しく、でもどこか心地良い。名前のない思いに戸惑いは一切なく、懐かしさすら感じる。

掲げていた両手を降ろし、再び星を見上げる。
他にも美しく輝いている星は沢山あるのに、俺は何時間もその星を視界に収めていた。
強く光を放つ星を、彼女に重ねながら。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:41:53.08 ID:MqrcOdKi0

5.
プラネタリウムを作り上げてから一週間。
夜になると部屋に存在する一切の光を遮断し、プラネタリウムの世界に身を委ねるようになった。

昼間は普通に学校へ入ったり買い物に出掛けたりしていたが、
日が落ちてから外に出る事はなくなり、部屋に籠って模造の星を眺めていた。

眺める星はいつも同じ。天井の片隅に存在する星を、眠くなるまで見続けていた。
星を見上げる時に襲いかかってくる言い様のない感情は相変わらず胸の中で燻っていて、
その度気持ち悪いような、気持ち良いような、不思議な気分に陥っていた。

その日も瞼が重くなるまで星を見ていた。
すっかり慣れたこの空間は自分だけの特別な世界みたいで、小宇宙の支配者にでもなったようだ。

横になったまま星に手を伸ばす。その行為はあの日以来何度も行なっていた。
当然ながら本当に掴める訳ではないが、それを知っていて俺は星を掴むような動作をした。

握った手を額の上に乗せ、目を閉じる。
一度眠いと感じた脳はそのまま眠るという選択肢を無理矢理押し付け、瞼を開く事すら許さなかった。
少しだけ寝よう、暫く経ったらまた起きよう。そう思いながら俺はそのまま眠ってしまった。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:45:11.04 ID:MqrcOdKi0

6.

川 ゚ -゚)「人生というのは実に奇妙奇天烈だと思わないか。
     日本だけでも億単位いる人間の中で私達はこうして出会い、手を取り合って隣に座っている。
     これは偶然か、はたまた必然か。君ならどう思う」

(´<_` )「よくわからん」

初夏の暑い日中、俺の部屋に遊びに来た彼女は黙っていたかと思うと突拍子もなくおかしな事を話し出した。
部屋の壁に凭れて一定の距離を取りつつ手を握っている俺達は傍から見てどう思われるのだろう。
友達にしては距離が近いし、恋人にしては距離が遠い。そんな微妙な距離を保ちつつ、俺達の関係は成立していた。

川 ゚ -゚)「相変わらず君は手厳しい。もっと気の利いた言い方があるだろう」

(´<_` )「いきなり人生について語られても困る事を察してくれ」

川 ゚ -゚)「ほう、ならば話題を変えよう。世界平和を成す為には本当にラヴアンドピースが必要だと思うか」

(´<_` )「絶対これは恋人同士の会話ではないな」

川 ゚ -゚)「何を言う、今私はラヴという言葉を使ったではないか」

(´<_` )「それはどちらかと言えばライクの意味に近いぞ」


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:48:18.87 ID:MqrcOdKi0

絡み合っている掌が湿気で濡れている。
そうでなくても扇風機と窓の開放でしか避暑対策が出来ないこの部屋にいるだけで汗が吹き出てくるのだ。

俺も彼女も掌だけでなく全身汗をかいている。
それでも繋いだ手を離さないのは彼女の小さな手が俺の指を強く掴んでいるからだ。

恋人になって早三か月、周りは既にキスもセックスも済ませたというのに、俺達は手を繋ぐ事すらままならなかった。

(´<_` )「それより一日中ずっとこうしていて暇じゃないか」

川 ゚ -゚)「君と居れるなら暇じゃないさ」

(´_<` )「何でそういう恥かしい事をサラッと言うんだ」

川 ゚ -゚)「私のこういう所に惚れたのだろう」

(´<_` )「知ってるか、そういうの自意識過剰と言うらしいぞ」

けれどこれが互いに一番落ち着く位置だと思っている。
俺も彼女もマイペースで、相手をどうにかしたいと思う前に、相手と分かり合いたいと思う気持ちが強いせいだろう。
甘い言葉を囁く位なら相手の事を聞く、愛を語る位なら自分の事を語る。それが俺達だった。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:53:22.90 ID:MqrcOdKi0

隣にいる彼女を見ると、天井を見上げて小さく息を吐いている。
決して外見で彼女と付き合っている訳ではないが、贔屓目抜きにしても彼女は他のどの女より美しかった。
鼻の筋が通った立派な顔立ち、腰まで伸びた綺麗な黒髪。頭の先から爪先まで、非の打ち所もない完璧な人だ。

性格的にも申し分ない。
だが良くも悪くも思った事を素直に言ってしまう所を受け入れる人は少なく、親しい友人は多い方ではなかった。

もう一つ考えられる理由として、その美しい容姿から近付り難い印象を持っているというのもあるだろう。
そういう意味では彼女は、全てにおいて特異的な人間だった。

彼女の方を見ていると、視線に気付いたのかこちらを見て悪戯のような笑みを浮かべた。
遠くもなく近くもない位置にいた俺達の距離は、彼女によって縮められて行く。
何をするつもりなのだろう。緊張で身体を強張らせながら俺は彼女の出方を伺った。

繋いでいた彼女の左手と俺の右手は離れ、彼女は俺の胸に頭を押し付けた。
正面から抱き締められ、成す術もなくなった俺は胸に耳を押し当てている彼女を見下ろす。

先程と変わらない笑みを彼女は浮かべている。
恐らく甘えたいという気持ちからの行動ではなく、こういう事をすると俺はどう反応するかを見ているのだ。
現にこんな場面でも俺達を囲む空気は甘い物ではなく、外と変わらぬ湿った夏の空気だった。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:58:43.45 ID:MqrcOdKi0

川 ゚ -゚)「凄く聞こえる」

(´<_` )「そうか」

川 ゚ -゚)「やはり君も男だな、澄した顔して実際はこんなに緊張している」

(´<_` )「クーの言葉を借りるなら人間として当然の反応だろう」

川 ゚ -゚)「それもそうだな」

怖い、嬉しい、恥かしい、気持ち良い。
そういった感情が混ざり合い、気持ち悪いような物が胸にこびりついて伸縮している。

彼女と付き合い出して生まれたこの感情をどう受け止めるべきかわからない俺は、
ただこの名も無き感情に全てを任せるしかなかった。

頬がとても熱い。部屋の暑さのせいか、彼女のせいか、どちらなのかわからない。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:02:27.07 ID:MqrcOdKi0

川 ゚ -゚)「母親の腹の中にいる胎児はこんな気持ちなのだろうな」

(´<_` )「どういう事だ」

川 ゚ -゚)「温かくて、優しくて、落ち着く。もしかしたら心音だけではなくて、人肌のせいもあるだろうな」

俺の腰を抱く彼女の力が強まる。けれど俺が彼女を抱き締め返す事はなかった。
付き合う以前は遠くから見つめる度、触れてみたいと思っていたのに、
いざ付き合ってみると、彼女に触れる事を躊躇ってしまう。

勿論彼女か嫌いという訳ではない。
ただ彼女に触れてしまうと、そのまま消えてしまいそうな気持ちになる。
力強く立つ彼女が不意に見せる儚さを美しいと思う反面、失ってしまいそうな恐怖も感じた。

それは俺達の関係が中々進展しない理由の一つでもあった。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:04:50.88 ID:MqrcOdKi0

川 ゚ -゚)「少し眠ってもいいか」

(´<_` )「構わんが暑くないか」

川 ゚ -゚)「逆に気持ちいいんだ。夕方になったら起こしてくれ」

暫くすると彼女の小さな寝息が聞こえて来た。
周囲からはよく大人っぽい、近寄り難いと言われている彼女。
そんな彼女が見せる俺しか知らない表情や仕草を見ると、それだけで胸がいっぱいになる。

彼女を取り囲むように腕を伸ばし、両手を組む。
瞼を閉じて視覚以外の神経に集中させると、沢山の情報が俺の中に入り込んで来た。

蝉の鳴き声、車の稼働音、彼女の髪が流れる音。
夏独特の生温い空気、汗で服に張り付く不快感、自分とは違う他人の体温。
夏の熱と彼女の体温に浮かされながら、俺の意識はそこで途切れた。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:07:43.88 ID:MqrcOdKi0

7.
唐突に現実へと意識を戻された俺は最初、一体自分がどれだけ眠っていたのかわからなかった。
机の上のプラネタリウムに触れると熱くない。
随分長い夢を見ていたように思っていたが、実際はあまり時間が経っていなかったのだろう。

目覚めた頭は意外にもスッキリしていた。
天井の隅で輝いているあの星を見上げると、俺の中で今までにない感情が込み上げて来た。
あの星に触れたい、そう思ったのだ。

身体を起こし、立ち上がる。
ゆっくりと手を伸ばして星に触れようとするも、寸での所で星には届かない。
壁に手を付き、背伸びをする。身体の上半身を壁に擦る程爪先を伸ばす。

星は届いた。
伸ばした手の中指に、想像していたよりも容易く触れてしまった。

触れたいと思って行なった行動なのに、俺は固まったまま星を見上げていた。
星を見る目は先程までの愛しさは存在しない。今そこにあるのはどうしようもない絶望感。
それは、彼女はもういないという事実を改めて突きつけられたのだった。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:10:30.84 ID:MqrcOdKi0

8.
私は今日、星になる

そんな簡素なメールを最後に、彼女は姿を消した。
日頃から変わった事を言う人だったから、俺もそのメールに関してはさほど気にしなかった。
事態が大事だと気付いたのはメールを貰って次の日、彼女の両親からの連絡からだった。

昨晩から連絡はなく、部屋はもぬけの殻。
彼女の両親とも顔を合わせている俺に、何か知っているのではと思って電話をしてきたそうだ。
俺は彼女と親しい仲にあった人に何か連絡はあったかと聞いたが、皆口を揃えて知らないと言う。

彼女の両親は警察に連絡をし、すぐさま彼女の捜索願いを出した。
警察から聞き込みを受けた際に分かった事だが、
どうやら彼女が最後に何らかの連絡をしたのは俺へのメールだったそうだ。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:15:26.62 ID:MqrcOdKi0

彼女が消えた事は大学中の話題となった。
彼女と付き合っている事を周知されていた俺に、人々はある事ない事尋ねて来た。

ある人は彼女がいなくなったのは身体で金を稼ぐ為じゃないかと言う。
また別の人はヤグザと一緒に逃げ出したのではないかと言う。
彼女を影から見ていたという人は俺が彼女を殺したんだろうと根も葉もない事を言い触らす。

人付き合いが得意ではなかった彼女のレッテルは日を追う毎に悪くなっていき、
俺はそれに対して言い返す事が出来ずにいた。

何度も警察へ連れられて同じ話を繰り返し、大学へ行っても同じ話題が俺の周りを囲んだ。
次第に俺は人との関わりを避けるようになり、家に塞ぎ込むようになった。

しかし時の流れというのは残酷なもので、気がつけば大学での彼女の話題はなくなっていた。
それは彼女が行方不明になった、という話ではなく、彼女の存在自体が皆の中で消え失せていた。
まるで最初からそこにいなかったように、時間は過ぎていった。

北風が吹き始めた冷たい空気の中、彼女の温もりを思い出しながら俺は堕落した生活を続けていた。
それが全ての真実だった。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:19:54.36 ID:MqrcOdKi0

(´<_` )「そうか」

偽りの星を見上げながら呟いた言葉は狭い室内に響く。
認めてしまえば楽になれるのだろうか。彼女はもう帰らないと諦めればいいのだろうか。

(´<_` )「クーはもう」

何度も何度も同じ言葉を繰り返し、何度彼女を諦めようとしたか。
しかし心は正直で、俺の中で彼女が消えた事実が認められずにいた。
きっと今でもどこかで生きている、そんな期待を抱いてしまうのだ。

(´<_` )「もう……いな……」

視界がぼやける。星の光が膨張してはっきり見えない。
頬を伝う熱い何かに触れると、指先が濡れている。
ああ、今俺は泣いているのか。人事のようにそう判断した。

結局の所、俺は模造の星を彼女に見立てて満足していたのだ。
星になると言って消えた彼女の虚像を作る事で、また会えるような気になっていたのだ。
けれど触感も何もない星に触れた時、俺の中で築かれた思いは砕けてしまった。

もう彼女はいない。
彼女がいなくなって四ヵ月、ようやく俺はその事を受け入れたのだった。

久し振りに流した涙は止まる事を知らずに流れていく。
彼女を失って数週間はずっと泣いていた。涙を流し過ぎて脱水症状でも起こすのではないかと思う位泣いていた。

とうに使い切ったと思っていたのに、涙はまだ残っていた。
部屋には俺の嗚咽だけが聞こえる。作られた自分だけの宇宙の中、彼女がいない悲しみに暮れていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:22:31.17 ID:MqrcOdKi0

9.

プラネタリウムを消して数週間振りに窓を開けた。
冬の空は乾燥していて星がいつもより綺麗に見える。
都会の空しか知らない俺はこの空を綺麗と言うが、世界はきっとこれ以上に綺麗な空があるだろう。

(´<_` )

大きく息を吸って空を見上げる。
プラネタリウムと違って小さく瞬く星は一つ一つ、違った色を放って夜空に浮かんでいた。

冬の大三角形の一番下、シリウスの隣には何も見えない。
実際には小さな星が沢山存在するのだろうが、人工的な光を放つ地上に反射して星達は姿を隠している。
目を凝らして見ても星は見えない。名も無き星も、彼女の星も、何も見えない。

(´<_` )「そりゃそうだよな」

想像の星が現実に現われる訳がない。改めて俺の前に彼女がいない事実を突き付けられた。
鼻の奥が鋭く刺激される。涙腺にまで届いた刺激は再び涙を落とした。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:25:12.35 ID:MqrcOdKi0

涙を拭いながら俺は昔の事を思い出した。

昔、可愛がっていた野良猫が死んでしまって悲しくてずっと泣いていた。
昨日までそこにあった存在が今日になって消えた事実を受け入れられなかったのだ。
家によく来ていた猫が大好きだった縁側で、一人蹲っていた俺の隣で黙ったまま座っていたのは兄者だった。

一人になりたかった俺は兄者に向こうへ行けと言い続けていたが、大概兄者も頑固だった。
根負けした俺は兄者を追い払う事を諦め、顔を伏せて二人無言で座っていた。

猫の事を思うとまた悲しくなり、兄者が隣にいるにも関わらず、俺は声を噛み殺しながら泣いていた。
確かあの時兄者は俺に何か言ったんだ。
星を見上げながら泣きそうな声で、自分にも言い聞かせるような口振りで言ったんだ。

あいつは星になったんだ、と。

幼い俺は何を言っているのか分からず、星には既に星座によって名前がついているだろうと泣きながら反論した。
だが涙と鼻水で酷い顔をした兄者は馬鹿野郎と言いながら更に続けたんだ。

(´<_` )「見えなくてもずっと輝いてそこにいる……」

あの日兄者が口にした言葉を思い出すように呟く。
あの頃は兄者の言葉が理解出来なかったが、今なら何となくわかるような気がした。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:28:16.43 ID:MqrcOdKi0

夜空に手を伸ばす。
伸ばした先には何もない。だが俺にはその先が見えるような気がした。

眩しい位に強く輝いていて、けれどどこか儚い存在。
瞼を閉じるとその内側で彼女の凛とした立ち姿が見えた気がした。

(´<_` )「クー」

彼女はもうここにはいない。けれど彼女は確かに存在していた。
現実の空にいなくても、俺の宇宙の中で永遠に輝いている。

他の誰かが忘れてしまっても俺は忘れない。
いつだって彼女を探して、何度もこうして手を伸ばす。
それが例え、意味のない事だとしても。

(´<_` )「すぐに見つけてやるよ」

涙は枯れない。想いも枯れない。
この思いが続く限り、俺は彼女を探し続けるのだろう。

他の誰も知らない、俺だけが知っている彼女の居場所。
確証はなくても、俺は探してみようと思う。


世界で俺しか知らない、たった一つの星を今日も探している。


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