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泡沫のパティ 頂きます、のようです

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頂きます、のようです 

ラノベ参加短編。
参加No.10





518: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:34:59.67 ID:TWFkhqme0

もう昔の話だ。
幼馴染みのデレと僕はとても仲が良くて、よく母さん達の目を盗んでは二人で外に出掛けていた。
金色の柔らかい髪が僕の前で踊り、その髪に包まれるようにしてあるのは柔らかいデレの笑顔。

デレは僕より年上だったけど、とても頭が悪くて世間知らずな子どもだった。
僕より外に出ているくせに、デレは本から吸収した僕の知識を発揮するたびに驚いていた。
だけどその時、僕の方だけを見て笑ってくれるデレがとても可愛くて、綺麗で。

僕はそんなデレが、大好きだった。


頂きます、のようです




521: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 23:36:56.41 ID:TWFkhqme0

外は既に薄暗くなっている。夜のディナーには丁度良い時間だ。
広々としたキッチンでスープを煮込みながら、僕はそんな事を考えていた。
窓の外を眺めていると必ず思い出すのはデレの事ばかり。
つまり、それ程デレとの思い出が詰まっている世界なのだ。

そういえば僕が外に出なくなってもう十年近くなる。
最後に家から抜け出したのは今日のようにとても天気の良い夏の夜だった。



花火を見せてあげると言うデレに連れられて、この街一番高い木に二人で登って花火を見た。
確か、運動神経も悪いデレがいつまで経っても木に登れないでいた気がする。
ようやくデレが木に登れた頃には花火も大詰めを迎えていて
花火半分しか見れなかったね、って言いながら能天気に笑っていた。

それでも僕は初めて見る花火にとても胸を踊らせていて
半分でも見れたから充分だよ、って言ったような気がする。




523: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:37:45.94 ID:TWFkhqme0

けれどその夜以降、デレと外に出る事はなくなってしまった。
理由は当然の如く、夜に禁じられていた外出をしたからだ。
デレは父さんに何度もぶたれていて、頬を真っ赤にして泣きながらごめんなさいと繰り返していた。

そんなデレを見て僕は止める事もしないまま、ただ冷たい目でデレを見る事しか出来なかった。
勿論、完全にデレを見捨てたと言えば嘘になる。
だけど絶対的存在の父さんに歯向かえなかった幼い僕は、デレを悪人にする事で自分を守ったのだ。

それから三日振りに顔を合わせたデレの頬は腫れていて、とても痛々しかった。
唯一の慰めにと思って、メイドから氷水を貰いデレの頬に優しく当てると
ひーくんありがとう、と嬉しそうな声で言っていた。
その優しさに何も言えなくなった僕は、ただ淡々とした声でぶっきらぼうに返事をしたのだった。

今でもこの事は後悔している。
もしあの時デレを叩く父さんの手を止める事が出来ていれば、
そうじゃなくても、あの後デレに見て見ぬ振りをした事を謝罪出来ていれば。
そんな事を考えてしまうのだ。




524: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:39:13.37 ID:TWFkhqme0

不意に背後からオーブンの終了を告げるベルが鳴った。
側にあった鍋掴みを手に嵌めてオーブンのドアを開けると肉の焼ける匂いがキッチンを駆け巡る。
思っていた以上に美味しそうに出来ている。そう思う僕の心はどこか嬉しそうだった。

後はスープが出来ればディナーの準備は完了だ。
煮込んでいるスープを味見してみると、いい感じに味が取れている。
後もう少し煮込めば更に美味しくなるだろう。そう思いながらキッチンから出たのだった。

一人で使うには贅沢すぎる広いリビング。
ほんの数日前は沢山の人で賑わっていたのに、今ここにいるのは僕一人だけだ。
目の前で大きく構えている食卓用の長い机を包み込むようにテーブルクロスが掛けられている。
デレのお母さんが大好きだった紫色のテーブルクロスを撫でて再び物思いにふけった。




525: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:40:02.81 ID:TWFkhqme0

デレのお母さんはメイドの中でも一番出来る人だった。
母さんから聞いた話じゃ、母さんとデレのお母さんは昔からの知り合いで
それなりに交友関係もあった事から、他のメイドと違って娘のデレと一緒に住み込みで働いていた。

けれど、僕が中学校に入った年の夏にデレのお母さんは亡くなった。
何かの病気を患っていたらしく、病気が発覚した時は既に遅かったそうだ。

葬式には僕達家族も参加した。デレの親戚は一人も葬式に来なかった。
泣き虫なデレも、この日だけは泣かずに参拝に訪れた人達の応対をしていた。
流石メイド長の娘なだけあって、機敏に動きながら参拝に訪れた人達に終始笑みを浮かべて話をしていた。

葬式も一段落して、デレに夜食を持っていってあげると、誰もいない物置き場で一人膝を抱えて泣いていた。
僕の気配に気付いたデレは慌てて涙を拭い、いつもと何ら変わらない笑みを見せてくれた。
泣き笑いとはまさにこの事だ。そんな儚いデレの微笑みに、僕は胸が詰まるような気持ちになった。




527: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:40:47.41 ID:TWFkhqme0

少し思い出に浸り過ぎたようだ。

キッチンへ戻り、スープの味見をすると丁度良い具合に出来上がっていた。
食器棚からお気に入りの皿を幾つか出すと、スープを真っ白な皿に入れていく。
少し濁った白いスープがカップを滑り落ちていった。

スープを食卓へ運ぶと、先程焼き上がった肉を食べる分だけ切り分けた。
途中、何か堅い物に当たって綺麗に切り分ける事が出来ず見栄えが悪くなってしまった。
しかし今日これを食べるのは僕だけだ。特に見た目を気にする必要はないだろう。
そう思い直し香ばしい香りが漂う肉が乗った皿も食卓へ運んだ。

最後に僕は冷蔵庫から大きな肉を出した。
剥き出しになった果物のようなそれには微かに血が混っていた。
洗い落とそうかとも考えたが、逆にこの血が味を引き立ててくれるだろう。
そう思い僕はそのまま食卓へと足を運ばせた。




528: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:41:38.81 ID:TWFkhqme0

食卓に運んで行く途中で何か柔らかい物につまづいた。
厳密に言えば物と化した物体を足で脇に寄せると、真っ赤なそれに目もくれずに歩いて行った。
それは、つい三日前まで生きていたはずの人だった。



三日前、この屋敷に強盗が押し入って来たらしい。
らしい、と言うのも僕は過保護な両親が作った頑丈な部屋に閉じ込められていて、詳しい事情を知らないからだ。
ドアの外から聞こえて来る叫び声と肉が引き裂かれる音に、僕はどうする事も出来ず震えていた。

窓から抜け出して助けを呼ぼうにも、窓の鍵は使用人しか持っていない。
頑丈なドアだから侵入はされないけれど、逆に僕一人では部屋からも出られない。
せめて誰か一人だけでも、デレだけでもいいから生きていて欲しい。一人膝を抱えてそう願った。

けれど現実はそう簡単にいく訳がなかった。
次の日の朝、警察が来て僕を部屋から出してくれた時には屋敷中血の臭いと腐臭が漂っていた。
その時初めて僕は昨晩の犯行が指名手配されていた強盗だった事、僕以外生きている人間は誰もいない事を知った。

この屋敷は街外れにある為、本格的な現場検証は後日という事になり警察は帰っていった。
最も、僕が追い出したと言った方が近いのだけれど。




529: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:42:21.50 ID:TWFkhqme0

誰もいなくなった屋敷で、僕はデレを探した。
肉親である父さんや母さんを探すより先に僕はデレの行方が気になったのだ。

デレは一番奥の寂れた物置部屋で見つかった。
心臓ひと突きで、それ意外の目立った外傷は見当たらなかった。
寝ているだけなんじゃないかと思う位安らかな顔をしていて
ああ、きっと苦しまずに逝く事が出来たのだろうと思った。

デレの死体を目にした僕は特に何も感じなかった。
デレがたった一人の肉親である母親を亡くして泣いていたような悲しい気持ちも
狭い世界に存在していた顔見知りを全て殺された悔しい気持ちもなかった。
まるで空っぽになったみたいに感情と言う感情を感じることが出来なかった。

きっとデレがいないからそう感じるんだ。
だって、デレと一緒なら楽しい気持ちも嬉しい気持ちも、何だって共有出来た。
ならデレを僕の中に取り込めば良い。そうすればきっと何かを感じる心が手に入るに違いない。そう思った。




530: 頂きます、のようです :2008/08/29(金) 23:43:06.69 ID:TWFkhqme0

目の前に広げられたグロテスクな食べ物達。

四肢を引き裂いて焼いた腕と足の丸焼き。
骨を砕きにして取った骨味のスープ。
そして目の前にあるのは、もはや原型を成していない脳みそだった物と無造作に備えられた目玉が二つ。

どう見たって美味しそうじゃない。むしろ、こんな下手物な物を食べようとも思えなかった。
けれど、それでもこの不味そうな料理を食べたいと思うのはこの食材一つ一つがデレだからだ。
もはや僕の知っているデレの姿ではないけれど、生まれてからずっと共に過ごして来た身体なのだから。

(-_-)「頂きます」

幼い頃から母さんに教えられていた食事の前の挨拶をすると、フォークとナイフを持って冷たい肉を切り分ける。
切り込んでいく度に血が噴出し、僕の洋服も血塗れになってしまった。
けれど、そんな事も気にしないで肉を切り分ける。
神経の筋なのだろうか中々切れず、しまいには肉を乱暴に引きちぎってしまった。

血塗れの肉は正直言って美味しくなかった。
むせ返るような生臭い味、嫌に堅い食感、それらは僕の喉を通り胃の中に落とされた。

けれども、何回か口に運んでいく内に味や食感にも慣れて来た。
それでも美味しいとは思えなかったけど、確実に先程よりは食べ物としての機能を果たしている気がした。




536: 頂きます、のようです :2008/08/30(土) 00:02:24.57 ID:9qjm66FXO

機械的にどんどん生臭い肉を口に運んでいくと、残り半分になっていた。
備えられた目玉をフォークで刺し、口に含むといつか食べた魚の目玉のような味がした。
DNAだったかが豊富なのは魚も人も変わらないのかな、そう思いながら目玉を噛み締めた。

元々脳みそと言う器官だった物体を食べ終え、白く濁ったスープをスプーンで救って飲む。
案の定味はなかったが、血の味で満たされていた口内を潤すには丁度良かった。

それから僕はテーブルの上に出された料理を全て食べた。
腕の肉を食べ、骨のスープで喉を潤し、時折お気に入りの葡萄酒で舌の舌の感覚を正常に維持させた。
欠片一つも残さず食べ切ると膨らんだ腹を落ち着かせる為に椅子に座り直す。
瞼を閉じて、体内に吸収されたデレと過ごした日々を巡らせた。

血の臭いに混ってデレとの記憶が蘇る。
一緒に遊んだ事、一緒に怒られた事、一緒に笑った事、一緒に泣いた事。



いっしょ、に。




538: 頂きます、のようです :2008/08/30(土) 00:05:14.42 ID:9qjm66FXO

(-_-)「あれ……?」

頬に何か温かい水が滑り落ちた。
拭ってみるとそれは僕の目から出ているもので、ああ、僕は今泣いているんだと冷静に思った。

息を深く吸い込み、深呼吸をして泣きたい衝動を押さえるけど
止め方を知らない涙は僕の膝を濡らしていく。

(-_-)「あ……あああぁぁ……」

胸に込み上がる息苦しさに机に伏せ、声を上げて泣いた。
身内が全員死んでしまった時も、デレの死体を目にした時も泣かなかった。悲しいという感情が働かなかった。
けれど今僕を満たすのは悲しい感情のみだ。説明のしようがない感情が僕を飲み込んでいく。

名前の付けられない、こんな感情は初めてだった。




541: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 00:09:27.92 ID:9qjm66FXO

(-_-)「……デレなんだ。きっとデレの……デレの」

そのまま言葉を紡ぐ事が出来ず、僕は心の中で口に出そうとした言葉を呟いた。
きっとこの涙はデレの優しさなんだ、と。
いつも笑顔だったデレの、ドジで泣き虫なデレの、弱虫だけど我慢強いデレの優しさなんだ。

嗚咽をあげながら僕はずっと奥にある向かい側の席に視線をやる。
テーブルの上には割れた頭蓋骨を隠すように覆っている金色の髪。
その下にはぽっかりと三つの穴を開けたデレの顔があった。

大好きだった、ずっと大好きだった。
父さん達は僕達の仲を嫌がっていたけれど
本当はそんな圧力なんかに負けないくらい大好きだったんだ。

だけど僕はデレに何かをしてあげる事は出来なかった。
デレはこんなどうしようもない僕を実の弟のように可愛がってくれて
今だって感情をなくしていた僕の涙を流してくれた。

(-_-)「……ありがとう、デレ」

今はこんな簡単なお礼しか言えないけれど
いつか天国で会えたら今までしてもらった分ちゃんと返すから。
だからそれまでデレのお母さんと一緒に待ってて下さい。




542: 頂きます、のようです :2008/08/30(土) 00:10:48.59 ID:v+s+3EsT0

(-_-)「ご馳走様」

涙を拭いながら手を合わせて軽く頭を下げる。
明日にはきっとまた警察が来るだろう。
デレを食べたなんていえないから、今からでも屋敷を出る準備をしよう。

数回しか外に出たことの無い僕にとっては無謀な事だけど
ここで何もしないでいるよりは、次にデレと会う時一人前の男になった姿を見せ付けてやろう。
亡骸となったデレと一緒に、世界を見に行こう。

そう思っていると向かいの席に見えた、無表情のはずのデレが笑った気がした。



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